ローカルみえ
 
HOME
社会 ビジネス グルメ 文化・生活 健康 お出かけ
朝日新聞の姉妹紙
ローカルみえ
ローカルみえは2000年10月12月号〜2007年7月27日号(統合版)まで発行
SANSANは2000年10月5日号〜2004年9月2日号まで発行
オンラインショップ
 
 
 
 
よっかいちタウン情報-まつさかタウン情報
   
RAKU
統合版(2004.11以降)
ローカルみえ
さんさん
RAKU
防災特集
   
広告掲載について
お問い合わせ
ローカル三重概要
会社概要
著作権とリンクについて
リンク集
メール
 
 
Home >バックナンバー > 2005.3.10> 8面
 
※掲載内容は取材時によるものです。詳細は各施設、店舗にお問い合せ下さい。

【8面】

【興味津々】

針で刻み込む追憶の絵画 
画家・八島正明のアトリエを訪ねて 


 朝日新聞三重版の『見もの聞きもの』に書かれている八島正明さんの美術評論に、私はいつも心惹かれていた。
  初めて八島さんの絵を観たのは高校生の時。白と黒を基調とした画家自らの追憶を語るような画面。それ以来、八島さんの絵は私の網膜に焼き付いている。一度画家本人に会ってみたかった。

  雪化粧の鈴鹿山脈を左手に見ながら、巡見街道(国道306号線)を北に車を走らせる。純白の残雪と、黒い山肌のコントラストが、八島さんの作品を彷彿させる。いなべ市に近付くにつれ、私の緊張は高まっていく。
  八島さんの真新しいアトリエは、藤原岳が目前に迫る山裾にあった。アトリエ前の畑の向こうには、黄色い車体の三岐鉄道三岐線が長閑に走る。「どうぞお入り下さい」。ああ、あの絵の作者は、こんな風貌の人なんだ―あの時、網膜に焼き付いた絵のイメージと、電話の声、そして作者自身が一致し、緊張は最高潮に達する。
  「実は、若い頃にちゃんとした絵の勉強はせずに、今も描き続けているんです」。アトリエ内で始まったインタビューは、八島さんの以外な一言から始まった。
  画家・八島正明(68)=写真=は、藤原岳の麓で生まれる。父の転勤で名古屋に移るが、徐々に戦争の激しさが増し、疎開で故郷に戻る。そこへ兄弟や親戚も加わり、一つ屋根の下、26人もの大所帯での生活が始まる。畑はわずかしかなく、当然、食料は不足。グミやイタドリなど食料を求め野山を徘徊する日々。生まれ故郷だが、転入で外来者扱いにされ、地域に馴染めず、いじめを受ける。安心して心を開くことができるのは、家族だけだった。
  やがて終戦を迎え、辛酸を嘗めた故郷を大学進学を機に離れる。大学では日本史と美術を専攻。その時は日本史がおもしろくて仕方がなかった。

  大学卒業の前年、アルバイトで貯めたお金で山陰へ旅行した際、広島にも立ち寄り、原爆資料館を見学した。そこで衝撃を受けたのは、原子爆弾の閃光により銀行の階段跡に焼き付いた人影。それを見て、すぐさま館長の説明を仰いだという。同時に蘇ったのは、疎開中に栄養失調で亡くなった妹の記憶。それが自らの内向的な性格、幼少の頃からの劣等感、などと混ざり合い、自己表現の手段を絵画に求めることとなった。
  自らの内向的性格と苦渋の過去をはね除ける手段として絵筆を握ったのが今から約45年前。正統な美術教育を受けていなかったハンデを克服するアイデアとして、「白と黒の色調を和紙と墨で表現」する手段を選び、頭角を表す。やがて表現手段は油彩に移行し、「画壇の芥川賞」とも称される安井賞を1975年に受賞。その後も精力的に制作活動を続け、個展、美術館への作品収蔵、小説の表紙装画なども数多い。
  八島さんの油彩は、針で描かれる。裁縫で使う針で、絵の具を削り取っていく。これには八島さんの母親が日夜行っていた和裁の内職に起因する。広大な画布を、微細な針で形を削り出す気の遠くなるような作業。しかし、それは、黒く塗り込められた自らの過去を削りだし、再度、画家自身の内面に刻み込む作業なのかも知れない。
  「作品が作家の手元を離れれば、作品は見る人の自由になる」と良く耳にする。八島さんの作品も例外に漏れず、見る人の想いを掻き立てる。実体の無い無数の影、遠く白昼夢の彼方に向かう後ろ姿…。八島さんと同時代を生きた人にも、そうでない人にも、見る人によって画面に刻み込まれた意味を汲み取ることは難しくはない。
  新しいアトリエは画家自身により「私呟館」(しげんかん=私事を呟く館)と名付けられた。2階はギャラリーになっていて、八島さんの作品を観ることができる。4月2日から10日まで「八島正明・黒の軌跡」と題し、作家の1960年代後半から70年代前半の作品を展示する。開館時間は午前10時から午後5時まで。
  4月16日からは、南勢町の伊勢現代美術館で個展を開催。初期の作品から近作まで展示される。

  いなべ市藤原町大貝戸1646―1の「私呟館」の問い合わせは八島さん=電話0594(46)4505、南勢町五ヶ所浦字湾場102―8の伊勢現代美術館の問い合わせは、同館=電話0599(66)1138=まで。      (森)

 
 
広告掲載についてお問い合わせローカル三重概要会社概要著作権とリンクについてリンク集│
Copyright 2003 Local Mie. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.