| 第9歩 「出会う」を楽しむ。
話しかけてくる人は様々だ。例えば、デパートで「あんた、ワシにどっちが似合うと思う?」とセーターを2枚、ひらひらさせた年配の男性。電車の中で「何を読んでらっしゃるの?」と私の本をのぞきこんだ女性。セーターは、肌の色が明るく見えるほうを選び、本については、後で絶対読みたくなるような解説をした。ほんのひととき他愛もない会話を交わすことは、何か楽しい。 そういえば、道もよく聞かれる。残念なことに地理的なことにあまりにも疎く、わからない場合が多い。でもせっかくだからどうにかしようと、頭の中にいい加減な地図を描き、相手と一緒になってごちゃごちゃ考えてみる。たまになんとか上手に答えられたりすると、達成感にしばらくは浸れる上、その人と束の間の友情を育んだような気になってしまう。 先日、スーパーで出会った人は忘れ難い。食料品の大量買いをした私は、レジで会計を済ませ、買い物カゴの食品を袋に詰めていた。すると耳元で「あの〜、」という声。(なんだろう)と顔を上げると、老婦人がじっと私を見ている。「はい?」わけのわからぬまま、彼女と見つめ合うこと数秒。(誰だろう。何の用だろう)と考えていると、私の視界に、やや遠くにいる夫の姿が入ってきた。向こうの台で、買った食品を袋に詰めている。「あ!」瞬間、事態が飲み込めた。このカゴ、私のじゃない。私がせっせと袋に入れているのは、この人が買ったもの……。恥ずかしさを通り越し、衝撃だった。常日頃ぼーっとしてはいるが、それもついにここまで来てしまったか!と自分の失態に、言葉を失った。すると、彼女はふわりと優しい笑顔を見せ、「ありがとう」と言ったのだ。それは私が「すみません!間違えてしまって……云々」と謝るよりも早かった。私の表情を見て、即座にこんな風に言えるなんて。頼みもしないのに勝手に袋詰めする怪しい女は、彼女の一言で親切な人にしてもらった。こんな風に年をとりたいな、と思える人に出会い、ぼんやりし過ぎな自分について思い悩み始めたことまでも、すっかり忘れられたのだった。 どんな人とでもちょっとしたきっかけで会話を始めたら、その人はもう見知らぬ人ではなくなるんだなあ、とつくづく思う。今日出会ったのは、5歳位の女の子。色とりどりのマニキュアを眺めていたとき、その子に聞かれた。「ねえ、何色が好き?」真剣に考えたが、答えが見つからなかったので、逆に「あなたは?」と聞いてみた。彼女は、ちょっと迷ってマニキュアを指差しながらこう言った。「えっとー、これとこれとこれとこれとこれ」そうか、1色を選ぶ必要はなかったのか。人生の師匠はどこにでもいるらしい。 |